情報量は多ければエライのか?


写真は映像に比べると、遥かに情報量としては少ない。同じ手間を掛けてロケをしたりスタジオセットを組むのなら、映像に残した方がどれだけ効率よく大量の情報を残せるかは誰もが分かる問題である。情報量と言ってもあくまでも物理的な数字上のことである。
テレビの時代であっても、ラジオが消えることはない。それは運転中や受験勉強の最中でも聞けるからなんて単純な問題では片付けられない。確かに得られる情報量は少ないが、ラジオにはラジオの存在価値があるから、生き残れているわけだ。

何かいいところがあるから存在している写真なわけで、雑誌やカタログなどの出版物と写真の相性がよく、ポスターや広告などにも確かに写真は有効であるが、それらが将来的に技術の進歩ですべて映像化されてしまう日が来るかもしれない。液晶TVなどもどんどん薄くなっていているし、雑誌の付録や配布物もDVDが増えてきているのは事実で、もちろんインターネットの世界でも、WEBカタログなどになると映像が見れて当たり前になってきた。それは情報を蓄えたり伝達するハードの進歩が目覚しいからでもある。

こう考えると写真の旗色は悪くなる一方のように思えるのだが、映画やTVでどれだけ映像が氾濫しても、決して小説など本はなくなることは無い。小説を読んで映画を観る人もいればその逆もありで、活字だけという制限から比べると映画の方がどれだけ豪華絢爛な情報が多いことか。しかし、小説の方が映画より何倍も楽しめた経験が私は少なからずある。映画はよく娯楽と言われるが、読書を娯楽と表現しているのを私は知らない。そんな表現を許さない何かがあるに違いないのである。
何回も同じ映画を観た話はよく耳にするが、その逆で一度観れば十分な映画であっても、その原作の小説は時が経てばまた読みたくなってしまう場合だってある。多分、そのもう一度と思わせる何かが根本的に違うのではなかろうか。

静止画の写真側の立場とすれば、文学通でもないのに小説の方を応援したくなってしまうわけだ。それは決して劣勢だからではなくて、映像はどうしても受動的になってしまうように感じるのだ。写真や小説は自分の中で色々と想像することが最大の楽しみなのである。動かないし何も聞こえないが、それは与えられたものを受け止めるのではなく、自分の感性でそこを埋めて人それぞれ感じれるはずだ。
もちろん、いい写真であることはもちろんであるし、小説でもまったくイメージが膨らまないつまらないものもあるが、いい作品に出会えた時はいい映画を観た以上に得した気分にさせてくれる。
次から次に、これでもかと襲いかかってくる映像の世界に身を置くのも確かにいいものだが、それがすべてにおいて写真よりいいとは思わない。もちろん、過去の自分の経験を超越するような映像や音響、俳優の演技、監督の技などがあれば、観てよかったとか、面白かったと思えるのは無理も無いことではある。しかし、これらはまた自分のイメージを広げる引き出しの一つになっていく。

私はDVDを借りてきて、日本語の吹き替えを選ぶことも多い。字幕より簡単に内容が理解できるし、映像に集中できるからである。また、本音を言えば楽だから。
しかし、そんな時でも字幕に切り替えたい衝動に駆られることがある。それは俳優と声優の声が私のイメージの中で不協和音を奏でる時と、この俳優ってどんな声なんだろうと感じる時だ。そして、自分のイメージした声とピタリと一致したりすると、なんとなく満足感に浸れる。
余談だが、私は声の無い写真を撮っていながら、声の好みがかなりある方で、いくらルックスが良くても声が野太かったりすると、かなり萎えるのである。
こんな風に声が気になってきたりすると、ポートレートの見方の第一歩を踏み出したと言えよう。私なんかは撮影の現場の空気を知っているだけに、写真からカメラマンとモデルの気持ちの流れとかを想像してしまうこともあるが、一般的に見ても、楽しそうに笑っているけど、作り笑いなんじゃないかと思えてしまう場合がある。まぁ、雑誌などで目にする写真のほとんどが作り笑いなのだから、何も考えずに受け入れてしまっているケースがほとんどだろう。オカマタレントがアイドル歌手のモノマネをして人気者になったことがあるが、あの特徴的な表情は、本人が可愛く見えると思って練習したか、周りのスタッフが教え込んだのだろうが、意識的にいつも同じ顔をしていて、こっちが恥ずかしくなっていた表情そのものであった。
ポートレートに写っているモデルを見て、作為が無く自然な表情だと感じる写真は、それ以上の想像の域に意識を導いてくれる。そうなると、映像に比べるとちっぽけな物理サイズの写真でも、一気に挽回できるのである。
そんな写真を撮っていきたい私であるが、写真を見る側ももう少し頑張ってもらいたいものである。製作サイドになめられているんですよ、貴方たち。


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